• 栄養素編
  • コラム編
  • 分子栄養学入門
  • 上級(会員専用)

1 分子栄養学とは

分子栄養学だなどいわれると、聞いたことのないことばとして、耳にひびくことでしょう。恐らく、大方の人は、栄養物質について分子レベルで考える学問ではないか、と想像することでしょう。 私たちの口にはいる、パンも、バターも、味噌も、豆腐も、せんぶつめれば、すべては分子の集合体です。万物は分子の集合体なのですから、食品も例外ではないということです。

分子栄養学ということばは、私の造語です。そのことばをつくった私は、分子栄養学の意味を、栄養物質を分子レベルで考える学問としたわけではありません。そんな考えなら、昔からあったわけで、いまさら、新しいことばをつくるのは無用のわざです。

分子栄養学というからには、分子レベルの考え方がどこかにあるにちがいないと、誰しも想像されることかと思います。その分子が栄養物質側のものでないことは、もうおわかりでしょう。それは、受入側の分子だったのです。

栄養物質を受入れるのは、いうまでもなく私たちのからだ以外のものではありません。分子栄養学は、からだを分子レベルで考える栄養学のこと、と理解していただきたいと思います。

私たちのからだは、水分子もあります。タンパク分子もあります。リン脂質分子もあります。そういうものについての分子レベルで扱う科学も、昔からあったことで、いまさらとりたてるのはおかしなことです。分子栄養学の頭につけた分子は、そのような分子をさすものではありません。

分子生物学という新しい学問が誕生したのは一九五八年ですが、ここまで生体のことがわかってみれば、栄養学も書き換えられるベき運命にありました。分子栄養学とは、分子生物学によって書き換えられた栄養学という意味の命名なのです。

分子生物学とは、生物を分子レベルで考える生物学にちがいありませんが、その分子の根幹におかれるのが遺伝子なのです。だから分子生物学というかわりに、遺伝子生物学といっても、不当ではありません。それと同じように、分子栄養学は、遺伝子栄養学といってよい内容をもった学問である。といっておきましょう。

私たちのからだは、遺伝子分子をかかえた分子の集合体です。栄養物質分子の受入側には、そういう特徴があるのです。

ここからすぐにわかることは、遺伝子のもつ要求にこたえることが、食品の条件だということです。分子栄養学の本領は、遺伝子をフルに活動させるのに必要な栄養物質は何と何か、めいめいにそれがどれだけいるか、の手がかりになる理論を提供するところにあるといっておきましょう。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.3」(1983年3月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。