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11 物理学を起点とした栄養学

ここまでのところで、細胞とよばれる小さな生命単位のなかに、いくつかの小器官のあることがおわかりだと思います。核、ミクロゾーム、リボゾームなどがそれでした。細胞が生きていくためには、そのなかに、いろいろな働き手がなければなりますまい。それがつまり、「細胞内小器官」というものだと考えていただきましょう。

細胞内小器官の一つリボゾームが、雪だるまのような形をしていて、それが、RNAのもってきた暗号を解読し、アミノ酸を暗号にしたがってつないでゆく役目の装置だ、ということは、もうおわかりでしょう。 このリボゾームをばらばらな分子が自然に集合して、もとどおりの雪だるまの形を組み立ててしまうのです。しかもそのものには、暗号解読能力が、ちゃんと備わってもいます。

ここに煉瓦づくりの家があったとします。それをとりこわして、ばらばらな煉瓦の山にしたとして、それが自然にもとどおりの家に組み立てられたとしたら、それは魔法としか思えないでしょう。それが、細胞内小器官の一つリボゾームにおきたことなのです。

それから推測すると、さまざまな細胞内小器官が、このようにしてつくられたのでないか、全く物理的な力の働きでつくられたのではないか、と考える余地がでてきます。それならば、細胞そのものも、このような全く物理的な力で組み立てられるのではないか、遠くの人が考えるようになりました。それが正しいとすると、生命の神秘などというものは、雲散霧消せざるをえません。 もともと宇宙に生命はなく、無から有を生ずるがごとくに生物が誕生したという歴史を思えば、このリボゾームの奇跡は、何ら怪しむにたりない、当然のことだといってしまってよい、と私は考えます。それはまた、分子栄養学の基礎におかれるべき思想だ、と私は考えます。

すでに述べたとおり、分子栄養学の生みの親は分子生物学でした。そして、分子生物学は、物理学者クリックの頭からでたものでした。そしてまたそれは、生物学者や生化学者の頭からは、でることのできない性質のものでした。

生命現象を分子レベルで扱う生化学という科学は以前からもありました。それは、化学反応を中心においたものです。ところが、分子生物学は、化学反応の頭の上をこえて、暗号化された遺伝情報の解読から出発します。これは、従来の生物学や、生化学からの完全な離脱であり、発想の転換であります。 それと同様な発想の転換が、分子栄養学を誕生させました。そして、ニュートリションはニュートリオロジーに変貌したのです。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.13」(1984年1月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。