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12 新しい栄養学

新しい栄養学ということばが、よく聞かれます。私の分子栄養学も、その新しい栄養学の一つである、と主張することができるわけですが、いずれにしても、新しい栄養学の発想が、あちらにもこちらにもあらわれたという事実は、これまでの栄養学が信用を失ったことを証明するものでしょう。

この栄養学変事の転機となったのは、栄養学の本家アメリカの上院で、栄養問題特別委員会が、大規模な調査をおこない、その結果を公表したことにある、と私は思います。これは、アメリカ国民に大きなショックを与えたと伝えられます。

この報告書の内容には、二つの顔があるようです。一つは、現行医学の批判、一つは食生活の批評としてよいでしょう。 現行医学にたいしては、医学が食生活と病気との関係を無視してきたことを批判しています。また、医者の栄養についての無知無関心を批判しています。そして、新しい医学は、細胞の栄養バランスに着目したものでなければならないといい、細胞の働きを分子レベルで問題にする分子矯正医学こそが新しい医学である、といっています。

ビタミンCとカゼ、ビタミンCとガンなどの関係の研究で知られるライナス=ポーリングが、分子矯正医学の提唱者です。彼は、特定のビタミンなどの不足からおこる病気を、それの大量投与によってなおすことを考え、これに「分子矯正医学」という名前をつけました。こういうのが新しい医学だと報告書は述べているのです。

また一方、その報告書は、現代医学の最大の課題であるガンにもふれています。そして、アメリカでは毎年平均四〇万人がガンで死んでいるが、そのうち三五万人は食生活に関連している、タンパク質、とくに動物タンパクを多くとると、ガンになりやすい、食物繊維をとるとガンになりにくい、などといっています。そしてまた、デンプンを多くとる草食型の国民は総体的に健康だ、といい、アフリカ原住民の食生活に学ぶべきだ、などともいっているのです。

ここには、私たちのよく知っている自然食主義の思想がうかがわれます。これに力をえた指導者の一人に、パーボ=アイローラという人がいます。この人は、『ハウ ツー ゲット ウェル』(丈夫になるには)というベストセラーの著者として有名です。

ことしになって、アイローラは脳卒中で倒れました。享年六八歳ということです。彼は肉や卵をきらい、植物タンパクさえも制限して、穀類を主食とする菜食主義に徹したあげく、平均寿命に達しない年齢で、この世を去りました。当初、その死因が交通事故とされたのも、栄養学博士の名が泣くからの窮余の弁明というところでしょう。これは、まぎれもなく、自然食敗北の記録となりました。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.14」(1984年2月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。