• 栄養素編
  • コラム編
  • 分子栄養学入門
  • 上級(会員専用)

13 自然食主義の落とし穴

アメリカの上院の栄養問題特別委員会は、医学界、栄養学界に大きな衝撃を与える、歴史的なものになりました。それは、医学にたいしては、分子矯正医学という新しい道を示しました。そして、栄養学にたいしては、食生活の見直しをもとめました。そこから、パーボ=アイローラのような自然食主義者がでてくることになりました。自然食の悲劇は、前回で紹介したとおりです。

皆様もうご存じのとおり、分子栄養学では、栄養素のトップにタンパク質をおきます。タンパク質がふそくすれば、親ゆずりのせっかくの遺伝子が、活動を阻害されるわけでしょう。低タンパク食は、動脈硬化・高血圧などを約束するわけですから、アイローラを脳卒中に追い込んだことにふしぎはありません。

アメリカの上院特別委員会の報告には、文明国の食生活はまちがっている、ニ十世紀初頭の食生活にもどれ、などというような主張があります。これが彼が委員会に影響を与えたのか、私には見当はつきませんが、両者のあいだに一脈つうじる点のあることは確かです。

もともと、自然食主義には、理論的根拠がありません。根拠を与えようとすれば、どうしても、屁理屈をこねなければならなくなります。その例は、わが国の自然食主義の元祖桜沢如一氏の陰陽説です。これは、『食養学原論』にくわしく説明されていますが、そのあらましは、私の『健康食総点検』で理解して頂けると思います。 彼は、ナトリウム・カリウムを陰陽の実体とする物活説を展開します。物活説とは、万物に生命ありとする原始的な思想であって、いま通用するはずのないものですが、現実には、まだその信奉者がわが国にも少なくないのが実情です。

パーボ=アイローラの場合にも、その菜食を中心とする自然食主義に、根拠がないわけではありません。彼は、穀類・野菜類の食物繊維に異常な執着を見せています。そのことは、彼の著者『ハイポグリセミア』(低血糖症)によくあらわれています。彼は、食物繊維に重きをおく一方、例の報告書にあるように、タンパク質を敬遠する態度にでました。食物繊維をせっせと食べたことは、糖尿病や胃腸障害の予防には有利だったにちがいありませんが、低タンパク食は、何といっても致命的でした。

私たちの生命現象をトータルに見た場合、食物繊維のような特殊な物質に着目することは、重大な偏向としなければなりません。木をみて森を見ず、というこことになってしまいます。いわゆる新しい栄養学には、とかくこのような落とし穴がついてまわります。

生命について、健康について考えるとき、私どもは、遺伝子にまでさかのぼらなければならないのです。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.15」(1984年3月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。