• 栄養素編
  • コラム編
  • 分子栄養学入門
  • 上級(会員専用)

15 分子矯正栄養学

アメリカ上院栄養問題特別委員会報告書という歴史的文書の批判をとおして、従来の栄養学も、いわゆる新しい栄養学も、理論の柱がないために、矛盾をはらみ、説得力に欠けることを明らかにしてきました。そこで、栄養学の理論の基礎をどこにおくべきか、という問題にぶつかります。しかし、分子生物学という、生命の根本をにぎる科学が誕生した今日、栄養学の基礎に分子生物学がおかれなければならないことは、疑問の余地のないところだ、と私は思います。私の分子栄養学がそこから生まれたことは、もう説明する必要はありますまい。

ことばのうえで、分子栄養学とよく似たものに、分子矯正医学があります。それについては、例の報告書もふれているわけですが、ポーリングは最近、これを分子矯正栄養学に改名しました。ことばのうえで似ているといったのは、この分子矯正栄養学のことです。日本ではこれを、分子整合栄養学と訳す人があらわれました。

分子矯正栄養学、分子栄養学は同じものなのでしょうか。ちがうとすれば、どこがちがうのでしょうか。

分子矯正医学の提唱者ポーリングは、特定の栄養素の分子濃度が低いことからくる病気があること、その病気は、分子濃度を高めることによってなおることを主張しました。そして、そのような治療法をとる医学を、分子矯正医学としたのでした。考えてみれば、それは医療手段というよりも、栄養補給といったほうが適切です。そこで彼は、分子矯正医学を、分子矯正栄養学に改称したのだと思います。

ここまで説明でおわかりのとおり、分子矯正栄養学のいう「分子」は、ビタミンなどの栄養素の分子以外のものではありません。したがって、分子矯正栄養学の本質は、われわれが問題にしている分子生物学とは、いささかのかかわりもないわけです。そういっては悪いけど、分子矯正栄養学の理論は、きわめて浅いところにしかありません。でも、それは分子矯正栄養学の実用的価値をそこなうことにはならないのです。分子矯正栄養学は、一つの実学といえるでしょう。分子整合栄養学についてもこれと同じことがいえるわけです。結局、分子矯正栄養学も分子整合栄養学もDNAレベル、遺伝子レベルの科学ではありません。それは、分子栄養学とは全くちがう次元の学問なのです。

分子栄養学は、DNAレベル、遺伝子レベルの栄養学であるという意味において、古典栄養学ともちがい、アメリカ上院栄養問題特別報告書が誘発したもろもろの新しい栄養学ともちがいます。そして、分子栄養学こそが、二十世紀後半の科学の進歩に対応する、今日的理論をもつ唯一の栄養学であるといえるのです。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.17」(1984年5月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。