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17 カスケード理論

ビタミンCにいくつもの作用があって、その優先順位が人によってちがうという仮説を説明するために、私は、目に見えるようなモデルを工夫しました。

私は、頭のなかに一つの段々滝を描きました。階段のようになった滝に、上から水がおちてきます。その水は、一つ一つ段々をおりてゆくはずです。その段々に、いくぶんでも水がしみると、するといちばん下の段まで水がおちるためには、水量が十分なければなりますまい。水量が不十分ならば水は途中の段までしかおちないでしょう。

このモデルに対して、私は、カスケード理論という名前をつけました。カスケードというのは、段々滝のことです。私は、このモデルを思いついて、私の白内障の説明がついたことで、悦にいっていました。 どうして白内障の説明がついたと考えたかというと、それはこういうわけです。

カスケードを流れおちるというのは、いうまでもなく水です。しかし、私のカスケードは、水のカスケードではなく、ビタミンのカスケードです。そしていまそれは、ビタミンCのカスケードです。このカスケードは頭のなかのものですから、流れおちるものが水でなくたって、少しもこまりません。ビタミンCが水にとけていなくても、さしつかえはないのです。

カスケードの段々の数について、私はよくわかりませんが、仮にそれを五段としましょう。ビタミンCの抗白内障作用が、私の場合には五段目、家内の場合は二段目だったとします。二段目まで滝がおちてくるのは、五段目までとくらべれば、楽なことです。ビタミンCの量がとくに多くないとき、二段目までなら水がおちてきても、五段目はむり、というケースがあるにちがいありません。

私の家の食事は、とくにビタミンCをたっぷりとるかたちのものとはいえませんでした。とするなら、抗白内障作用を五段目にもっている私が、家内よりもこの眼病にかかる確率がたかいことになるでしょう。 これが、私の白内障を説明する手がかりを与えようとして思いついたカスケード理論でした。これをとくに「理論」と名付けるのはおおげさすぎるかもしれません。理論と名の付くほどものではないのです。それなのに、カスケード理論などというのは、これが、私にとっては、自分がことさらに白内障になったと理由を説明する一つの理論になる、と考えたからにほかなりません。

ここで私は、カスケードの段々に水がしみるといいました。しかし、なぜ水がしみなければならないかという点について、とことんまで考えることはしませんでした。この問題についての仮説をたてることができたのは、私が分子生物学を知ってからのことなので、一九八一年頃のことになります。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.19」(1984年7月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。