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18 代謝と酵素

私のカスケード理論の原型は、ごくごく荒けずりのものでした。カスケードの段々に、水がしみこむといいました。それは、ビタミンがしみこむということですから、しみこんだビタミンがどうなるかが問われているはずです。

もし、実際の段々滝で水がしみこむとしたら、段々をつくっている岩に、割れ目があるとか、こまかい孔があるとか、そういったことがなければなりません。そしてそこで、水は損失になるはずです。ビタミンならば、それがロスにならなければ、つじつまがあわなくなるでしょう。

ビタミンCには壊血病を防ぐといったような、積極的な作用があるはずです。 風邪を防いだりなおしたりする作用もあるはずです。 もっとも、一九六二年頃とすれば、ビタミンCについての知見は、これが精一杯で、ほとんどゼロに等しいものでした。

それにしても、このような積極的な作用をたとえるのに、水が岩にしみこむとするのはほめたことではないでしょう。 分子生物学を知ってからの私は、段々におちる水の行方について、漏斗を考えるようになりました。漏斗に落ちる水には、損失ではなく、積極的な作用をもたせようとしたわけです。積極的な作用とはなにかといえば、もちろん代謝です。

代謝の説明は、ここでははぶきたいと思いますが、念のために一言しておきます。代謝とは、生物の体内で、遺伝子の指令によっておきる化学反応のことです。 生体の温度は三十七度前後の低いものですから、そこでの化学反応は特別な条件がなければむずかしいことになります。特別な条件とは、反応のなかだちをする物質、つまり、酵素の存在です。代謝はすべて、原則として、酵素のなかだちによっておこるのです。

酵素の主成分を主酵素といいますが、これはタンパク質です。そこで、代謝にとってなによりだいじなものはタンパク質ということになります。

ビタミンCのカスケードの話にもどりましょう。そのどこかの段が代謝にかかわっているとします。すると、そこには漏斗があるはずでした。その漏斗がタンパク質でできているとすれば、話はうまくゆくでしょう。上からおちてくる水が、その漏斗にはいれば、代謝がおこる、と考えるのです。

ところが、代謝というものは物質の運動ですから、運動をおこすものをここにもってくれば、好都合です。そこで私は、漏斗をおちる水で、まわる水車を考えました。タンパク質の漏斗にビタミンの水が流れこめば、それが代謝という名の水車をまわす、と考えるのです。 カスケードをおちる水は、岩にしみこんだり、水車をまわしたりすることになります。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.20」(1984年8月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。