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2 古典栄養学と分子栄養学

分子生物学を基盤とする栄養学。これが分子栄養学です。これを新しい栄養学とするならば、分子生物学以前のそれは、古い栄養学ということになるでしょう。これを私は「古典栄養学」とよびたいと思います。

古典栄養学は、食物を、熱や力のもとと考えるところから出発します。熱も力もエネルギーですから、古典栄養学では、食物をエネルギー源と考えます。そこで、カロリーというエネルギー単位を使って、食品の「栄養価」を割りだすことが柱になりました。

成人一日の摂取カロリーがいくらでなければならないというめやすがたつと、こんな献立では栄養価がたりるとか、たりないとか、食生活について新しい観点がでてきました。これは、古典栄養学のおかげといってよいでしょう。

カロリー計算は、学校給食や病院食などで、栄養士さんの大切な仕事になっています。それはまた、アフリカ西岸諸国に対して、当面どれだけの食糧援助が必要か、というような計算の基礎を与えます。さらにまた、食事制限を必要とする糖尿病患者の献立をつくるのに、なくてはならないものとなっています。このような意味で、古典栄養学が、現在もなおその価値を失っていないことは確かです。

古典栄養学は、栄養素として、糖質・脂質・タンパク質の三者をあげ「三大栄養素」の考え方を全面におしだしました。栄養価をカロリーであらわす立場があれば、タンパク質はどうしても影がうすくなります。それにしても、三つの栄養素があれば、そのバランスはどうかという問題がおこるのは当然でした。「栄養のバランス」の概念は、そこから生まれたのでしょう。

栄養バランスの数字が一方にあり、総カロリー数が一方にあれば、糖質・脂質・タンパク質の一日必要量が算出されるわけです。そうしておいて、ビタミン・ミネラルをふくむ食品を献立に組みこめば、理想的な食事ができる、というのが古典栄養学の思想なのではないでしょうか。

分子栄養学の理論からすると、三大栄養素の筆頭にくるのがタンパク質になります。「タンパク質は生命をつくる」のです。だから、タンパク質の必要量は、カロリーとは無関係に、プロテインスコア100の良質タンパクとして体重の1000分の1とされます。これは必須の条件でして、糖質や脂質の量に左右されない数字なのです。

この例でおわかりのとおり、分子栄養学では、栄養素の絶対量に目をつけます。だから、栄養のバランスという考え方のでてくる余地はありません。これは、三大栄養素にかぎらず、ビタミンやミネラルなどすべての栄養素について、一貫しての主張となります。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.4」(1983年4月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。