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5 個体差はタンパク質の違い

皮膚の移植手術は、やけどや、皮膚の手術のあとでは、よくおこなわれます。そのとき、移植する皮膚は、本人のものにかぎります。もし、一卵性双生児の兄弟がいるのなら、その人のものを使うことができます。

私たちのからだは、いうまでもなく、自分のものです。自分の皮膚がどうにかなったのなら、修復のためには自分の皮膚をもってこなければなりません。 自分のものを「自己」というなら、ひとのものは「非自己」です。私たちのからだは、自己だけでかためるのが原則です。それはつまり、同じDNAをもった細胞でかためるのが原則、ということです。

自分の皮膚の細胞は、自分のDNAをもっています。ひとの皮膚の細胞は、その人のDNAをもっています。それはつまり非自己です。自分のからだは自分のものでかためるのが原則だとすれば、非自己はあくまでも排除しなければなりますまい。

このとき、植えつけられた皮膚が、自己であるか、それとも非自己であるかの判別が必要なわけでしょう。この判別は、DNAのちがいをみるのではなく、タンパク質のちがいをみるのです。人がちがえば、皮膚のタンパク質もちがいます。そのタンパク質のちがいによって、自己と非自己との区別がつくのです。非自己タンパクのことを「異種タンパク」といいます。私どものからだは、異種タンパクを見分けて、それを排除するのです。

もうひとつの例をあげましょう。 腎臓が悪くなると、人工透析という方法で、血液の浄化をはかることは、ごぞんじのことと思います。人工透析がやっかいだといって、腎臓移植にふみきる人もいます。

腎臓の形はどうか、機能はどうか、などということは、教科書を見れば、すぐわかることです。それを見ると、腎臓はだれのものでも同じなことがわかります。しかしそれは、形や機能のことであって、その実質であるタンパク質は、人それぞれにちがいます。よその人の腎臓は異種のタンパクなのです。皮膚の移植と同じわけで、腎臓の移植も、有効な対策ぬきでは、失敗にきまっています。

ところで、非自己を排除する現象を「免疫」といいます。この免疫をおさえこまないことには、どんな移植も成功しないにきまっています。腎臓移植・心臓移植などでは、免疫抑制剤を使って、免疫能力を殺さなければなりません。そのために、抵抗力がダウンしてしまうので、風邪も命とりになりかねないからだができあがります。

個体差の問題は、このように、からだのすみずみにおよんでいます。おたがいは、人間である点にちがいはないのですが、からだの素材であるタンパク質は、どこからどこまでもちがうのです。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.7」(1983年7月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。