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6 栄養条件もひとそれぞれ

私たち一人びとりの人間は、顔かたちが十人十色であるばかりでなく、からだの内部のすみずみまでが十人十色だということが、もうおわかりのことと思います。私たちのからだは、親子であっても、兄弟であっても、その素材であるタンパク質に着目すれば、けっして同じではありません。個体差は、頭のてっぺんから足の先まで、ついてまわるのです。そしてそれは、一人びとりのもっている遺伝子DNAの個体差からきているのです。

むろん、私たちはお互いに人間です。先祖はサルでも、いまはサルではなくて人間です。それは、私たちが、人類に特有なDNAをもっているからにほかなりません。私たちのDNAは、人類を特徴づけるDNAなのです。しかし、そのDNA分子の組成が一人びとり、少しずつちがっているのです。それが、タンパク質のちがいとしてあらわれているということは、もうご存じのはずです。

タンパク質の分子は、二〇種アミノ酸がくさりのようにつながった構造のものです。タンパク質のちがいは、そのアミノ酸の配列や数のちがいを意味します。だれの皮膚も、タンパク質でできていることにちがいはありませんが、そのアミノ酸配列が、人ごとにちがうのです。腎臓でも、目玉でも、みんなそれと同じことなのです。そしてそれは、DNAが人ごとにちがうところからきています。

このあたりで私のいっていることは、分子栄養学の話ではありません。分子生物学の話なのです。しかしこのあたりから、話は分子栄養学につながってくるのです。

私たちのからだの素材であるタンパク質は、一人びとりちがっています。そしてそれがフルに活動しなければ健康レベルがさがるとすると、事柄が単純でないことがわかります。生命の担い手がタンパク質であることが確かだとすると、そのタンパク質を活動させる条件に的をしぼる必要がでてきます。

タンパク質が、私たちのからだをつくる素材であることにまちがいはないのですが、その重要なものは酵素の役目をもっています。名前でいえば、「酵素タンパク」というものです。その酵素タンパクのアミノ酸組成に個体差があることを、ここでは注意したいのです。

ここに、Aさんと、Bさんとがいます。この二人は、体重も、身長も、年も同じだとしましょう。それならば、同じ献立の食事を、同じ量だけ食べたら、二人の栄養条件は同じになるかというとそうではないはずです。 高い健康レベルを保つためには、酵素タンパクがフルに活動しなければなりません。栄養の補給は、そのためにあるわけですが、酵素タンパクが、AさんとBさんとでちがうとすると、栄養物質の要求量が同じでよいはずがないではありませんか。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.8」(1983年8月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。