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8 DNAとは

生命の支配者である遺伝子が、DNA分子のなかにあることは、すでに述べたところでした。DNAが人それぞれにちがったものであり、その個体差がタンパク質に反映していることも、ご存じのとおりです。 では、DNAは、どんなもので、どんな働きをするのでしょうか。

DNA分子は、繩梯子のような形をしています。この繩梯子の各ステップは、まんなかではずれるようにできているので、チャックに似ています。チャックといえば、ふつうは布にとりつけられたものですが、布にあたる部分は、ここでは必要がありません。DNAは、はだかのチャックに似たもの、といったらよいでしょう。

はだかのチャックをねじった形が、DNA分子の形をあらわします。 チャックでは、両方からでた棒が、かぎになってひっかかっているでしょう。 そのかぎが、次つぎにはずれたとき、チャックは開きます。

チャックでは、かぎのついた棒は、どれも同じ形をしています。ところが、DNAのチャックでは、かぎのついた棒が四種あって、A、C、G、Tと名前で区別されます。そして、AはT、CはG、とつながる相手がきまっているのです。ここのところが、DNAとチャックとの大きなちがいになっています。もし、ACGTが四つに色わけされているとしたら、DNAのチャックは、自然の色もようをかもしだすことでしょう。Aをアンバー(コハク色)、Cをチャコール(炭色)、Gをグリーン(緑)、Tをタン(茶褐色)としておいたら、この四文字が色で覚えられて、便利かもしれません。

チャックというものは、きちんと閉じているのが正常の姿ですが、DNAの縄梯子も同じで、ふだんは、ステップのまんなかは、閉じています。そういう状態のDNAは、何の動きもしません。 もし私が、砂糖をなめたとします。すると、私の膵臓の細胞のなかにあるDNA分子のチャックの、ある部分が開くのです。

私たちがよく知っているチャックでは、端から端まで開くのがふつうですが、DNAのチャックは、一部しか開きません。それも、必要なときに開いて、必要がなくなればすぐに閉じてしまいます。 蔗糖が消化管にはいると、それは、ブドウ糖と果糖とに分解します。膵臓から小腸に分泌される膵液がふくむサッカラーゼという酵素の働きで、この分解がおきたのです。膵臓のDNAは、サッカラーゼをつくるために、チャックを開いたことになります。

一般に、DNAの縄梯子のステップがばらばらに開くのは、主として、酵素をつくる必要がおきたときなのです。もしこれが開かなければ、砂糖は消化吸収できないわけです。


*この文章は三石巌が会報誌「メグビーインフォメーションVol.10」(1983年10月号)に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。